以前のブログで「記憶」について書いたことがありますが、
時々、この世界を認知している自分の脳が正常に作動しなかったら、
自分にとってのこの現実はどう変わってしまうんだろう…
なんて、思うことがあります。
ジル・ボルト・テイラー著「奇跡の脳」は、
それに答えてくれる本でした。
彼女は、統合失調症のお兄さんが、
自分とは全然違った方法で現実をとらえ、
風変わりな行動をとるのを見て、
「たった今、全く同じ体験をしたはずなのに、
どうして私と兄で完全に解釈が違ってしまうのか」、
若い頃から人間の脳に興味を持ち、脳科学者になった方です。
そんな彼女がある日突然、脳卒中で倒れ、
左脳が機能しなくなってしまいます。
その代わり、右脳だけの、静寂の世界を体験することになるのです。
ヒプノセラピーでは、催眠状態になることで、
普段の私たちをほぼ支配している左脳
(考えたり分析したり判断したりする脳)にお休みしてもらって、
右脳(直観や創造に繋がっている脳)と繋がってもらうわけですが、
とはいえ、もちろん左脳は実際に機能を失ったわけではありません。
完全な右脳だけの世界って、どんなものなのでしょう?
彼女はこんなふうに書いています。
***
左の脳の「やる」意識から右の脳の「いる」意識へと変わっていったのです。小さく孤立した感じから、大きく拡がる感じのものへとわたしの意識は変身しました。言葉で考えるのをやめ、この瞬間に起きていることを映像として写し取るのです。過去や未来に想像を巡らすことはできません。なぜならば、それに必要な細胞は能力を失っていたから。わたしが知覚できる全てのものは、今、ここにあるもの。それは、とっても美しい。
「自分であること」は変化しました。周囲と自分を隔てる境界を持つ固体のような存在としては、自己を認識できません。ようするに、もっとも基本的なレベルで、自分が流体のように感じるのです。もちろん、わたしは流れている!わたしたちのまわりの、わたしたちの近くの、わたしたちのなかの、そしてわたしたちのあいだの全てのものは、空間の中で振動する原子と分子からできているわけですから。言語中枢のなかにある自我の中枢は、自己を個々の、そして固体のようなものとして定義したがりますが、自分が何兆個もの細胞や何十キロもの水でできていることは、からだが知っているのです。つまるところ、わたしたちの全ては、常に流動している存在なのです。
左脳は自分自身を、他から分離された固体として認知するように訓練されています。今ではその堅苦しい回路から解放され、わたしの右脳は永遠の流れへの結びつきを楽しんでいました。もう孤独でもなく、淋しくもない。魂は宇宙と同じように大きく、そして無限の海のなかで歓喜に心を躍らせていました。
***
私たちがこの現実世界で生きていくためには、
左脳の機能は欠かせないものですが、
こんな右脳の世界も魅力的ですよね。
「今この瞬間を生きなさい」とはよく言われますが、
右脳が得意とすることなのが、この文章からよく分かります。
だから、人は瞑想をするんですね。
先のテイラー博士の演説映像を見ると、
この本の概要は掴めると思いますが、
8年間のリハビリを経て復活した彼女の本を読むと、
脳についての勉強になるだけでなく、
科学者の目を通して見た認知能力が衰えていく過程、
右脳の意識への旅、意識的に右脳と繋がる
(=自分を自分でコントロールする)方法、
そして脳障害を抱える方が回復するために必要なことまで、
知ることができます。
私たちが普段当たり前だと思っている、自分の身体のこと、
ちょっと見直してみませんか?
今この瞬間も活動している、自分を形作っている50兆もの細胞に、
感謝せずにはいられなくなりますよ。